不動産相続で困らないために|相続前から確認したい7項目

相続が始まると、

「どんな財産があるのか分からない」
「実家を誰が相続するのか決まらない」
「兄弟で財産の振り分けについて意見が合わない」

といった問題が一度に出てくることがあります。

特に不動産は、現金のように簡単に分けることができず、資産総額に占める割合も大きくなりやすいため、相続人間のトラブルの原因になりやすい財産です。

さらに、相続税の申告・納税期限は原則として、相続開始を知った日の翌日から10か月です。10か月と聞くと余裕があるように感じますが、財産を調査し、不動産を評価し、相続人間で遺産分割について話し合っていると、決して長い期間ではありません。

今回は、不動産を所有する家庭が相続前から確認しておきたい7つのポイントを整理します。

1.最初に「相続人」と「資産総額」を把握する

相続税対策を考えるうえで、まず必要なのは節税方法を探すことではなく、資産の全体像を把握することです。

誰が相続人になるのか、どのような財産があるのか、借入金などの債務はないか、資産総額はいくらになるのかを確認することが出発点です。

預貯金、有価証券、不動産、生命保険、借入金などを一覧にし、できれば生前から財産目録を作っておくと、その後の相続手続きを進めやすくなります。

相続税対策は資産構成や家族構成によって千差万別です。資産総額を把握しないまま「贈与すればよい」「不動産を買えば節税になる」と対策だけを始めるのではなく、まず全体像を確認することが重要です。

2.相続税は一部の資産家だけの問題ではない

令和6年分では、全国で相続税の課税対象となった被相続人の割合は10.4%です。

埼玉県ではさらに高く、11.9%、およそ8~9人に1人となっています。

金融資産の価格変動に加え、不動産価格が上昇すれば、保有資産の総額も大きくなる可能性があります。

「うちは自宅と預金くらいだから相続税は関係ない」

と最初から決めつけず、一度資産総額を確認してみることが重要です。

大まかな目安ですが、次の計算で基礎控除額を超えそうな方は、一度、相続を専門としている税理士に相談することをおすすめします。

預貯金 + 株式等の金融資産の時価 + 不動産の相続税評価額 + 相続税に加算される生前贈与 - 借入金等の債務
> 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数

相続税の基礎控除額は、3,000万円+600万円×法定相続人の数です。正味の遺産額がこれを超える場合には、原則として相続税の申告が必要になります。

ただし、不動産は単純に固定資産税評価額を合計すればよいわけではありません。土地は原則として路線価方式または倍率方式、建物は固定資産税評価額を基に評価します。また、生命保険などのみなし相続財産、非課税財産、葬式費用、生前贈与なども相続税の計算に影響します。

生前贈与についても制度改正により、暦年課税による贈与の相続財産への加算対象期間が従来の3年から最長7年へ段階的に延長されています。単純な概算だけで判断せず、基礎控除額に近い場合には専門家に確認した方がよいでしょう。

3.「平等に分ける」は、不動産が入ると難しくなる

親の介護負担や、住宅購入資金などの生前援助をどのように扱うかは、相続人間のトラブルにつながりやすい問題です。

介護に伴う時間的・精神的な負担は金額に換算しにくく、生前の資金援助についても「どこまで遡って考えるのか」「どの程度を相続時に考慮するのか」で意見が分かれることがあります。

その結果、それまで仲の良かった兄弟姉妹の間に、不公平感や不信感が生じることもあります。

だからこそ、相続が始まってから初めて話し合うのではなく、親の意向や介護負担、生前贈与、実家を誰が引き継ぐのかなどについて、可能な範囲で生前から話をしておくことが重要です。

同じ「3,000万円」でも同じ価値とは限らない

さらに、不動産には「いくらとして分けるのか」という問題があります。

預金3,000万円なら金額は明確ですが、不動産の3,000万円はそうではありません。

不動産には、「一物四価」と呼ばれる目的の異なる複数の価格が存在します。

・実勢価格(時価)
・地価公示価格
・相続税路線価
・固定資産税評価額

例えば、一人が実家を取得して他の相続人へ代償金を支払う場合、

不動産を取得する側は低く評価したい
代償金を受け取る側は高く評価したい

という利害の対立が起こり得ます。

また、株式などの金融資産も、相続税評価の基準となる時点と、実際に遺産分割や売却を行う時点が異なるため、価格が変動することがあります。

したがって、相続税を計算するときの評価額、遺産分割で考える価額、実際に売却したときに手元に残る金額は、必ずしも一致しません。

同じ3,000万円相当の財産を取得したつもりでも、財産の種類によって実質的な価値に差が生じることがあります。

こうした評価時点や評価方法の違いによる不公平感が、相続人間のトラブルにつながる要因になります。

4.不動産は「価値」だけでなく、税制と維持負担まで確認する

不動産相続では、

「誰が価値の高い実家を相続するか」

が問題になる一方で、

「誰も使わない実家を誰が引き受けるのか」

が問題になることもあります。

利用予定のない実家、山林、農地などは、財産であっても、固定資産税、草刈り、建物管理、修繕、解体などの負担を伴います。

したがって、

いくらで売れるのか
貸せるのか
維持費はいくらか
将来利用できるのか

まで調べてから遺産分割を考える必要があります。

評価額の高い自宅宅地では「小規模宅地等の特例」も確認する

一方、評価額の高い実家の土地を相続する場合には、小規模宅地等の特例が利用できないか確認することも重要です。

一定の要件を満たす特定居住用宅地等については、330㎡までの部分について相続税評価額を80%減額できる制度があります。

例えば、相続財産の中で自宅敷地の評価額が大きな割合を占めている場合には、この特例を利用できるかどうかによって相続税の計算結果が大きく変わる可能性があります。

ただし、誰が取得するのか、居住状況、保有状況などによって適用要件が異なります。

そのため、

「実家は評価額が高いから売って現金で分けよう」

と決める前に、利用できる税制上の特例を確認しておくことも重要です。

5.不動産を「とりあえず共有」にしない

遺産分割がまとまらないため、

「とりあえず兄弟で共有しておこう」

という選択には注意が必要です。

共有不動産は、各共有者が自由に全体を処分できるわけではありません。

民法では、共有物についておおむね次のように区分されています。

共有不動産全体の売却や、形状・効用を著しく変える変更
→ 原則として共有者全員の同意

通常の管理に関する事項
→ 持分価格の過半数で決定

保存行為
→ 各共有者が単独で可能

となります。

大規模な修繕や改修についても、単純に「大規模修繕だから全員同意」と決まるものではありません。

現在の民法では、形状や効用を著しく変更する工事であれば全員の同意が必要となる一方、それほど大きな変更を伴わない管理行為であれば、持分価格の過半数で決定できる場合があります。法務省の資料でも、工事の内容によって251条の「変更」と252条の「管理」を区別しています。

つまり共有すると、

「自分は売りたいのに、他の共有者が反対して売れない」

という問題だけでなく、

「自分はその管理方法に反対なのに、持分の過半数によって別の方針が決まる」

ということも起こり得ます。

さらに共有者が死亡すれば、その持分が次の相続人へ承継され、共有者が増えていく可能性があります。

共有自体が悪いわけではありません。

しかし、

「話がまとまらないから、とりあえず共有」

では、現在の問題を次の世代へ先送りすることになりかねません。

代償分割にも「見えないコスト」がある

評価が高い不動産を単独で取得し、他の相続人に不公平是正のため代償金を支払う方法もあります。

ただし、金融資産や不動産など、現金以外の財産を代償として渡す場合には、譲渡による課税が生じたり、不動産であれば登記費用などが必要になったりする場合があります。

そのため遺産分割では、財産の額だけでなく、その分け方によって生じる税金や諸費用まで含めて検討することが重要です。

6.節税は「今回の相続」だけで考えない

相続税対策は、相続が目前になってから始めるよりも、資産総額を把握し、生前贈与などを含めて長期的に考えた方がよい場合があります。

特に注意したいのが、配偶者の税額軽減です。

配偶者には大きな税額軽減制度がありますが、

「税金が少なくなるから、とりあえず配偶者に多く相続させる」

ことが最適とは限りません。

その配偶者が亡くなれば、次に二次相続が発生します。

そのため、

一次相続だけでなく、二次相続まで含めた税額と財産配分

をシミュレーションすることが重要です。

不動産による相続税対策は「評価額が下がるか」だけで判断しない

また、不動産を利用した従来の相続税対策については、税制上の評価方法だけでなく、不動産事業そのものを取り巻く環境も大きく変化しています。

近年は資材価格や労務費の上昇により建築コストが増加しています。国土交通省が2026年3月から適用している公共工事設計労務単価も、全国平均で前年度比4.5%上昇し、14年連続の引上げとなっています。また、国も資材価格高騰を前提とした価格転嫁への対応を進めています。

さらに、金利環境も変わっています。日本銀行が公表する長期プライムレートは、2024年12月の1.90%から2026年6月には3.15%まで上昇しています。個々の不動産融資の金利がこの数値になるわけではありませんが、借入金利の上昇は賃貸事業の収支に直接影響します。 建築費の増加と借入コストの上昇が重なることで、以前の事業計画では採算が取れていた賃貸住宅でも、同じ条件では収支が成立しにくくなる可能性があります。

サブリースを利用すれば安心とも限りません。国土交通省も、サブリース契約について将来の借上げ家賃の減額、契約解除、原状回復費や大規模修繕費などをオーナーが負担する可能性があることを、契約前に説明すべき重要なリスクとして挙げています。

したがって、

「現金を賃貸不動産に換えれば相続税評価額を下げられる」

という一点だけで判断するのは危険です。

仮に相続税評価額を圧縮できても、

建築費の上昇
借入金利の上昇
借上げ家賃の見直し
空室・賃料下落
修繕・設備更新費
将来の売却価格

などによって、相続税の軽減効果を上回るコストや資産価値の低下が生じる可能性もあります。

不動産を利用した相続対策では、

「相続税がいくら下がるか」だけではなく、「相続後もその不動産事業が収益を生み続けられるか」

まで確認することが重要です。

相続税については税理士によるシミュレーション、不動産については建築費、想定賃料、借入条件、修繕計画、将来の売却まで含めた事業収支の検証を行ったうえで判断する必要があります。

7.相続した空き家を放置しない

相続した実家について、

「使わないけれど、そのうち考えよう」

という判断にもリスクがあります。

空き家を放置すれば、

屋根材や外壁の落下
塀や建物の倒壊
雑草や植栽の繁茂
害虫・害獣の住みつき
不法侵入
放火などの防犯・防災上の問題

が発生する可能性があります。

特に、雑草や庭木が繁茂して隣地や道路へ越境したり、害虫・害獣が発生したりすれば、周辺の生活環境を悪化させ、近隣住民とのトラブルにつながることがあります。国土交通省の調査でも、草木の繁茂・越境、害虫の発生、景観悪化、野生動物の住みつきなどが管理不全土地の周辺への悪影響として挙げられています。

さらに注意したいのが、第三者への損害と税負担の増加です。

老朽化した建物や塀が倒壊したり、屋根材などが飛散したりして隣家や通行人に損害を与えた場合には、管理状況や事故原因によって所有者の損害賠償責任が問題となる可能性があります。

また、適切に管理されていない空き家については、市区町村から「管理不全空家」や「特定空家」として指導・勧告を受ける場合があります。

通常、住宅の敷地には固定資産税等の負担を軽減する住宅用地特例が適用されています。しかし、管理不全空家や特定空家について、市区町村からの指導に従わず勧告を受けると、この住宅用地特例の対象から除外されます。

つまり、

「誰も住んでいないから、とりあえずそのままにしておく」

という選択にも、

建物の劣化
維持管理費
近隣への迷惑
損害賠償リスク
固定資産税等の負担増

というコストとリスクがあります。

さらに、一定の相続空き家を売却した場合には、譲渡所得から最高3,000万円を控除できる特例にも期限があります。

「とりあえず放置」は、不動産価値・管理責任・税制のいずれの面からも避けたい選択です。

まとめ|相続は単に資産を分けるだけではない

相続対策というと、税金を減らすことに目が向きがちです。

しかし実際には、

財産の全体像が分からない
介護負担や生前援助について認識が異なる
不動産の評価額について意見がまとまらない
誰も不動産を引き継ぎたがらない
共有にして問題を先送りする
税金や諸費用を考えずに財産を分けてしまう

といったことが、相続人間のトラブルにつながります。

相続税の申告・納税期限は原則として10か月です。

相続が始まってからすべてを調べるのではなく、可能であれば生前から、

資産の全体像を把握する
家族で話し合う
不動産の価値や利用方法を確認する
相続税をシミュレーションする

といった準備を進め、そのうえで生前贈与や生命保険なども含め、家族や資産状況に応じた長期的な相続対策を検討することが重要です。

相続は、単に財産を分けるだけではありません。

誰に何を残すのか、その財産をどう引き継ぎ、どう使い、将来どう処分するのかまで考えておくことが、相続対策の重要な一部です。